普段どおりの朝だったと思う。
ただ、いつもと違ったのは、
起こさないと起きないのに、
この日に限って夫は自分で起きてきた。
自営の仕事場へ向かう車の運転はいつも夫だった。
ただ、この日は違った。
車のキーを私に差し出し、
「運転頼む」と言った。
昨夜飲み過ぎて調子が良くないのかしら。
と、くらいにしか思わなかった。
あの日、車の中で会話したのだろうか。
前の晩によくしゃべっていたのは覚えているが、
どうだったろう。
仕事場まであと少しのところで、
ふと助手席の夫を見ると
窓の方を向いて頭が不自然に揺れていた。
「大丈夫?!」 声をかけた瞬間
ドスっと音をたててシートに持たれかかり、
いびきをかきはじめた。
待って!ダメだよ!
救急車呼ぶからね!
起きて!おきて~っ!
車を停めて119番した。
深い呼吸で自分を落ち着けた。
電話の向こうで呼吸を見るように言われ、
鼻と口に手のひらをあててみた。
「止まっています!」
顔色は土色に変わり、目も口も半開きで
もう意識は無くなっていた。
救急車は向かっているが、
すぐに近くの人に助けを求めるように言われる。
「誰か!救命措置ができる人はいませんかっ!?」
・・・いなかった。何人も集まってくれたけれど。
AEDもなかった。
ねぇ、いつもどおり貴男が運転していたら、
私も一緒に逝けたんじゃないかしら。
救急車が来たときはすでに、
心肺停止の状態で、
それでも何とか機械によって心臓を動かすことができたから
救急病院へ搬送され、ICUでの処置が始まった。
この時はまだ大丈夫だと
根拠もないまま自分を励ましていた。
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